内定を伝えたあと、労働条件通知書は入職日に渡せばよいのか。面接の連絡に使っているLINEやメールで、PDFを送るだけで済ませてよいのか。介護施設の採用では、こうした「渡し方」の迷いがよく出てきます。
この記事の結論
- 労働条件通知書は労働契約を結ぶときに渡します。基準は入職日ではなく契約を結んだ日です。内定によって労働契約が成立する場合は、内定の時点で明示が必要です。
- 有期契約の更新のときや、定年後の再雇用のときも、そのたびに明示が必要です。
- 原則は書面を渡すことです。メール・PDF・LINEなどで渡せるのは本人が希望した場合だけで、印刷して書面にできる形であることが条件です。希望していない人にメールだけで送るのは違反になります。
- 違反すると30万円以下の罰金の対象です。渡した通知書は「雇入れに関する書類」として、退職の日から5年間(当分の間は3年間)保存します。
以下では、渡す時期、書面で渡さなければならない項目、求人票との違い、メール・PDF・LINEで送るときの条件、保管期間、介護施設で気をつけたい場面を、法令と厚生労働省の資料をもとに整理します。
いつまでに渡す?基準は「労働契約を結ぶとき」
労働基準法第15条は、使用者は「労働契約の締結に際し」労働条件を明示しなければならないと定めています。厚生労働省のQ&Aでも、労働条件の明示は「労働契約の締結に際し行うもの」と説明されており、基準になるのは働き始める日ではなく、契約を結んだ日です。
内定で労働契約が成立するなら、内定の時点で明示する
厚生労働省・労働局・労働基準監督署のリーフレットは、「採用内定によって労働契約が成立する場合には、採用内定に際して労働条件を明示しなければならない」としています。「入職日までに渡せばよい」とする公式の説明は見当たりませんでした。
内定で労働契約が成立しているかは事情によりますが、同じリーフレットは、内定通知を受けた人が他社への応募を辞退し、入社誓約書を出していて、内定通知のほかに契約を結ぶための手続きが予定されていなかった事例で、内定通知によって労働契約が成立したと判断された例を紹介しています。内定のあとに誓約書や入職の書類を出してもらう流れなら、内定を伝える段階で通知書を渡せるよう、準備しておくのが安全です。
内定の時点で配属先のユニットや担当業務が決まっていない場合は、働き始めるときの就業場所や業務として想定される内容を、包括的に示しても差し支えないとされています。そのうえで、次のことが望ましいとされています。
- 決まっていなかった事項を、働き始める前のできる限り早い時期に決め、決まり次第あらためて明示する
- あらためて明示する時期も、内定のときに伝えておく
- 書面での明示が必要な項目は、あらためて明示するときも書面で行う
出典:労働基準法 第15条/厚生労働省「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る労働条件明示等に関するQ&A」1-2/厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「採用内定時に労働契約が成立する場合の労働条件明示について」(平成29年12月) 労働基準法を見る Q&Aを見る リーフレットを見る
契約の更新・定年後の再雇用のときも、そのたびに明示する
「労働契約を結ぶとき」には、有期労働契約の期間が終わったあとの更新や、定年後の再雇用も含まれます。半年や1年ごとに契約を更新しているパート職員には、更新のたびに労働条件を明示する必要があります。条件が前回と同じでも、更新は新しい契約の締結にあたるためです。
出典:厚生労働省「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」(令和4年1月7日・令和8年6月19日改正)/厚生労働省「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る労働条件明示等に関するQ&A」1-1 留意事項を見る Q&Aを見る
書面で渡さなければならない項目
労働条件のうち、次の項目は書面を渡して明示しなければなりません(労働基準法施行規則 第5条)。厚生労働省のモデル労働条件通知書は、これらの項目がそろうように作られています。モデル労働条件通知書は2026年4月30日に更新され、2026年10月1日以降は新しい様式を使うよう案内されています。古い様式を使い回していると、パート職員向けの「待遇の違いについて説明を求めることができる旨」などの欄が足りないことがあります。
- 契約期間:期間の定めの有無。有期なら期間と、更新の基準・更新の上限
- 就業場所・業務:雇い入れた直後の場所と業務、将来の変更の範囲
- 時間・休日:始業・終業の時刻、残業の有無、休憩、休日、休暇、交替制のこと
- 賃金:決め方・計算と支払いの方法、締め日と支払日(昇給は書面でなくてもよい)
- 退職:退職に関すること(解雇の事由を含む)
2024年4月1日からは、就業場所・業務の「変更の範囲」、有期契約の更新の上限(通算の契約期間や更新回数の上限)、無期転換を申し込めることと無期転換後の労働条件が加わりました。それぞれ明示するタイミングが決まっています。
| 2024年4月からの項目 | 明示するとき |
|---|---|
| 変更の範囲 | すべての契約を結ぶとき・有期の更新のとき |
| 更新の上限 | 有期の契約を結ぶとき・更新のとき |
| 無期転換 | 無期転換を申し込める更新のとき |
「変更の範囲」の書き方は求人票・労働条件通知書の「変更の範囲」の書き方で、介護施設の記入例とあわせて説明しています。
パート職員と有期契約の職員には、パートタイム・有期雇用労働法により、昇給・退職手当・賞与の有無、相談窓口も文書などで明示する必要があります。2026年10月1日からは、待遇の違いについて説明を求めることができる旨も加わりました。書き方は介護施設のパート労働条件通知書の書き方と記入例にまとめています。
出典:労働基準法施行規則 第5条第1項・第3項・第5項・第6項/厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」(リーフレット・2024年9月版)/短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 第6条/厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法施行規則等の主な改正事項」(令和8年) 労働基準法施行規則を見る 2024年のリーフレットを見る パートタイム・有期雇用労働法を見る 2026年の改正事項を見る モデル様式を見る
求人票を渡していても、労働条件通知書は別に必要
求人票(募集の段階で示す労働条件)と労働条件通知書は、根拠になる法律も渡す時期も違います。
| 求人票・募集要項 | 労働条件通知書 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 職業安定法 | 労働基準法 |
| 時期 | 原則、応募者と最初に接触するときまで | 労働契約を結ぶとき |
| 相手 | 応募する人 | 採用する人 |
厚生労働省の求人企業向けリーフレットも、募集の段階で示した条件とは別に、「労働契約締結時には労働基準法に基づき、労働条件通知書等により」明示することが必要だとしています。求人票を渡したことで労働条件通知書の代わりになる、とする公式の説明は見当たりませんでした。また、面接などの過程で最初に示した条件が変わる場合は、職業安定法により、その変更内容を速やかに示す必要があります。そのうえで、労働条件通知書にも変更後の条件を書きます。
出典:職業安定法 第5条の3/厚生労働省「職業安定法の改正に関するQ&A」問1-2/厚生労働省「求人企業の皆様へ」(リーフレット) 職業安定法を見る Q&Aを見る リーフレットを見る
メール・PDF・LINEで送るときの条件
書面で明示する項目は、原則として紙の書面を渡す必要があります。2019年4月からは、本人が希望した場合に限り、FAXや電子メールなどで明示することもできるようになりました。ただし、送った記録を印刷して書面にできるものに限られます。
| 渡し方 | 使えるか |
|---|---|
| 紙で手渡し・郵送 | 使える(原則の方法) |
| 電子メール | 本人が希望すれば使える。Gmailなどのウェブメールも可 |
| LINE等 | 本人が希望すれば使える(SNSのメッセージ機能) |
| FAX | 本人が希望すれば使える |
| SMS | 禁止ではないが、望ましくない |
| SNSの投稿・ブログ | 使えない(本人以外も見られる形) |
SMS(ショートメッセージ)は、PDFなどを添付できず文字数にも限りがあるため、例外的な手段とされています。原則は電子メールかLINEなどのメッセージ機能を使います。
本人が希望していないのに、メールやLINEだけで通知書を送るのは、書面で明示したことにならず違反になります。厚生労働省の通達とリーフレットは、トラブルを防ぐために次のことを勧めています。
- メールなどでの受け取りを本当に希望しているか、一人ひとりに、はっきり確認する(口頭での希望も含まれますが、個別に明示的に確かめるのが望ましいとされています)
- 本文に条件を細切れに書くのではなく、労働条件通知書に記入してPDFなどの添付ファイルで送る
- 送ったあと、本当に届いたかを本人に確認する
- なるべく印刷や保存をしておくよう、本人に伝える
- 義務ではありませんが、通知書に明示した日付、送った担当者の名前、事業所・法人の名前、使用者の氏名を書いておく
介護施設では、応募者との連絡をLINEで行っていることも少なくありません。その流れで通知書を送るなら、本人から「LINEでの受け取りを希望します」と返信をもらってからPDFを添付して送り、受け取ったと返信をもらう、という順番にしておくと、後から確かめやすくなります。厚生労働省のリーフレットでも、働く人の側から「SNSでの明示を希望します」と伝える形が例として示されています。
出典:労働基準法施行規則 第5条第4項/厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法関係の解釈について」(平成30年12月28日 基発1228第15号)/厚生労働省「平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります」(リーフレット・2019年2月) 労働基準法施行規則を見る 通達を見る リーフレットを見る
パート職員に明示する昇給・賞与などの項目も、同じ考え方
パートタイム・有期雇用労働法で明示する項目(昇給・退職手当・賞与の有無、相談窓口など)も、原則は文書の交付で、本人が希望した場合に限り、FAXや電子メールなどで明示できます。違反した場合は10万円以下の過料の対象です。
出典:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 第6条第1項・第31条/同法施行規則 第2条 パートタイム・有期雇用労働法を見る 施行規則を見る
渡さなかった・事実と違っていたときは
- 労働条件を明示しなかった場合は、30万円以下の罰金の対象です(労働基準法 第120条)。
- 明示された労働条件が事実と違う場合、働く人はすぐに労働契約を解除できます(第15条第2項)。
- その場合、就業のために住む場所を変えた人が、契約の解除の日から14日以内に帰郷するときは、使用者が旅費を負担しなければなりません(第15条第3項)。
内定の連絡のあとに勤務時間や手当が変わることもあります。通知書の内容と実際の条件がずれないよう、変わった点は書き直して渡し直しましょう。
出典:労働基準法 第15条第2項・第3項・第120条 労働基準法を見る
雇用契約書との違い
労働契約は、働く人と使用者が合意すれば成立します(労働契約法 第6条)。雇用契約書は、その合意を書面で確かめるものです。労働契約法は、契約の内容をできる限り書面で確認するよう求めています(第4条第2項)。一方、労働条件通知書は、労働基準法が使用者に義務づけている「明示」のための書類で、厚生労働省のモデル労働条件通知書には署名の欄がありません。
厚生労働省のパンフレットと通達は、労働条件を明示する書面の様式は自由としています。書面で明示すべき項目がすべて書かれていれば、雇用契約書と1つの書類にまとめる形も取れます。その場合も、項目の抜けがないかをモデル様式と見比べて確かめましょう。
出典:労働契約法 第4条第2項・第6条/厚生労働省「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」(パンフレット)/平成30年12月28日 基発1228第15号/厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)」モデル労働条件通知書(2026年4月30日更新) 労働契約法を見る パンフレットを見る 通達を見る モデル様式を見る
保管期間は退職の日から5年(当分の間は3年)
労働基準法 第109条は、「雇入れに関する書類」などの重要な書類を保存するよう定めています。厚生労働省のQ&Aは、雇入れに関する書類の例として契約書・労働条件通知書・履歴書などを挙げています。
- 保存期間は5年間で、経過措置により当分の間は3年間です。
- 雇入れに関する書類の期間は、その人が退職した日(または死亡した日)から数えます。入職した日からではありません。
メールやLINEで渡した場合も、何をいつ送ったかを後から示せるよう、施設側でも同じ書類を保存しておきましょう。
出典:労働基準法 第109条・第143条第1項/労働基準法施行規則 第56条第1項/厚生労働省「改正労働基準法等に関するQ&A」(令和2年4月1日)Q2-1 労働基準法を見る Q&Aを見る
介護施設で気をつけたい場面
登録ヘルパーなど、勤務日が決まっていない職員
訪問介護の登録ヘルパーのように、利用者の予定に合わせて勤務日や時間が決まる職員について、厚生労働省の通達は次の点に特に注意するよう求めています。
- 仕事がない期間も契約が続いているのかが分かるよう、契約期間の定めの有無と、有期なら期間・更新の基準をはっきり決めて書面で明示する
- 契約を更新するたびに、あらためて労働条件を明示する
- 勤務日や時間帯が月ごとの勤務表で決まる場合は、勤務の種類ごとの考え方と就業規則の関係する条項を示し、契約を結んだ時点の勤務表を示す
出典:厚生労働省「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日 基発第0827001号) 通達を見る
シフトで勤務が決まる職員
シフト制で働く職員の始業・終業の時刻は、「シフトによる」と書くだけでは足りません。日ごとの時刻を書くか、原則の時刻を書いたうえで、一定期間分のシフト表を一緒に渡す必要があります。介護施設での書き方はパート労働条件通知書の書き方と記入例で、交替勤務との違いも含めて説明しています。
出典:厚生労働省「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」(令和4年1月7日・令和8年6月19日改正) 留意事項を見る
まとめ:渡す前のチェックポイント
- 内定を伝えるときに、労働条件通知書も渡せる状態になっているか(未定の項目は想定される内容を示し、決まったらあらためて書面で)
- 有期契約の更新や定年後の再雇用のたびに、渡し直しているか
- 2024年4月から加わった「変更の範囲」「更新の上限(定めている場合)」「無期転換」が入っているか
- 2026年10月以降の新しいモデル様式(2026年4月30日更新)を使っているか
- パート職員には、昇給・退職手当・賞与の有無、相談窓口、待遇の違いの説明を求められる旨が入っているか
- メールやLINEで送る場合、本人の希望を確かめ、PDFで添付し、届いたことを確認したか
- 施設側にも同じ書類を残し、退職の日から3年間(当分の間)保存する準備ができているか
労働条件通知書は、採用した人と最初に交わす約束の書類です。渡す時期と方法を決めておくと、内定から入職までの連絡もスムーズになります。