介護のパート求人では、「扶養内で働きたい」という希望をよく受けます。厚生労働省の2021年の調査では、配偶者のいる女性のパートタイム労働者の21.8%が、税や社会保険、配偶者の勤め先の手当を意識して働く時間や収入を調整していました。調整の理由で最も多かったのは「一定額(130万円)を超えると配偶者の健康保険・厚生年金保険の扶養から外れ、自分で加入しなければならなくなるから」(57.3%)です。
出典:厚生労働省「『配偶者手当』の在り方の検討に向けて(実務資料編)」(令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査の集計) 資料を見る
ただ、「扶養内」とひと口に言っても、税・社会保険・家族の勤め先の手当で線がそれぞれ別にあり、2025年から2026年にかけて大きく変わりました。この記事では、施設が扶養内で働きたい方向けの求人票を作るときに押さえておきたい線と、求人票の書き方をまとめます。制度の情報は2026年10月19日時点のものです。
「扶養内」の線は1つではない
扶養内で働く方にかかわる主な線を、図にまとめました。金額はいずれも、収入が給与だけの場合の年収の目安です。
週20時間年収とは別の線です。従業員51人以上の法人などでは、週の所定労働時間が20時間以上なら、年収にかかわらず勤め先の社会保険に加入します。
- 119万円税本人住民税がかかり始める(本人に扶養する家族がいない場合の目安)
- 130万円社会保険本人家族の健康保険の扶養から外れる60歳以上・一定の障害のある方は180万円、19歳以上23歳未満の方(配偶者を除く)は150万円
- 136万円税家族配偶者控除を受けられる上限(超えると配偶者特別控除に切り替わる)
- 178万円税本人所得税がかかり始める
- 207万円税家族配偶者特別控除がなくなる
- 会社ごと手当家族配偶者の勤め先の配偶者手当(上限を103万円にしている会社が最も多い)
このうち、施設の求人票に直接かかわるのは、オレンジで示した社会保険の2つの線(週20時間と年収130万円)です。税の線と手当の線は、働く方やご家族の手続きにかかわる線なので、求人票では「どの線に合わせて働けるか」を書いておくことが大切です(書き方は後半でまとめます)。
※税の線は1〜12月の収入で、社会保険の130万円は「これから1年間の収入の見込み」で判定します。税の線は2026年度の税制改正で上がったもので(2025年までは配偶者控除123万円など)、2026年・2027年の収入に限った特例を含むため、2028年以後はその時点の制度を確認してください。住民税の基準は市区町村によって異なります。配偶者特別控除は、扶養する方の所得が900万円以下なら、169万円までは配偶者控除と同じ額です。配偶者手当の上限は会社ごとに違い、人事院の調査(2024年)では103万円が最も多い結果でした。
出典:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」「家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったとき、被扶養者の住所に変更があったときの手続き」「19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります」/国税庁「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」/総務省「地方税法等の一部を改正する法律の概要」/厚生労働省「『配偶者手当』の在り方の検討に向けて(実務資料編)」 適用の拡大を見る 被扶養者の手続きを見る 19歳以上23歳未満を見る 税の改正を見る 住民税の改正を見る 配偶者手当の資料を見る
2026年に社会保険で変わった2つのこと
1. 「106万円の壁」の賃金要件がなくなった(2026年10月)
これまで、従業員51人以上の法人で働く短時間労働者は、週20時間以上で、かつ月額賃金が8.8万円以上(年収で約106万円)のときに社会保険に加入していました。このうち月額8.8万円以上という賃金要件は、2026年10月1日に撤廃されました。いまは、従業員51人以上の法人では、週の所定労働時間が20時間以上かどうかで加入が決まります。
また、対象となる法人の規模も段階的に広がり、2027年10月から36人以上、2029年10月から21人以上、2032年10月から11人以上の法人が対象になり、2035年10月に規模の要件はなくなります。
出典:日本年金機構「2026(令和8)年10月に社会保険の短時間労働者に係る賃金要件が撤廃されました」/厚生労働省「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年法律第74号)の概要」 日本年金機構の案内を見る 法律の概要を見る
2. 130万円の扶養を「労働契約の内容」で判定するようになった(2026年4月)
2026年4月1日から、健康保険の扶養に入るときの年収の判定は、労働条件通知書や雇用契約書に書かれた賃金から見込まれる年収で行えるようになりました。賃金には、基本の時給だけでなく諸手当と賞与も含まれます。一方、労働契約で見込めない残業代などの臨時の収入は含めません。
ただし、次のような場合はこの判定方法が使えず、これまでどおり給与明細書や課税証明書などで判定されます。
- 扶養に入る日から数えて、契約期間が1年未満の場合
- 「シフト制による」など、労働時間の書き方がはっきりしない場合
- 「通勤手当あり」など、手当の金額が分からない場合
つまり、施設が出す労働条件通知書の書き方が、働く方の扶養の判定に直接かかわるようになりました。なお、臨時の収入で結果的に130万円以上になっても、社会通念上妥当な範囲であれば扶養を取り消す必要はないとされています。一方、通知書の賃金や労働時間を実際より低く書いていた場合などは、取り消されることがあります。
出典:日本年金機構「労働契約内容による年間収入での被扶養者の認定の取り扱いについて」/厚生労働省「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いに係るQ&A」 日本年金機構の案内を見る Q&Aを見る
介護施設の「51人」は法人全体で数える
社会保険の加入にかかわる「従業員51人以上」は、施設ごとではなく、同じ法人番号を持つすべての事業所の厚生年金の被保険者の合計が、1年のうち6か月以上51人以上になる見込みかどうかで数えます。このとき、短時間労働者として加入している方は人数に含めません。小規模なデイサービスやグループホームでも、運営する法人全体で51人以上であれば、週20時間以上で働くパートの方は社会保険に加入します。社会福祉法人・医療法人・株式会社のいずれも同じ扱いです。
法人全体で50人以下の場合は、週の所定労働時間と月の所定労働日数が、同じ事業所で働くフルタイムの職員の4分の3以上かどうかで加入が決まります。ただし、法人が申し出て「任意特定適用事業所」になっている場合は、51人以上の法人と同じく週20時間が線になります。自法人がどちらにあたるかは、社会保険の手続きの担当者や年金事務所で確認してください。
出典:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」 公式ページを見る
ここまでの社会保険の線を、判定の流れにまとめると次のようになります。
STEP 1
勤め先の社会保険に加入する条件にあてはまる?
従業員51人以上の法人(法人全体で数える。任意特定適用事業所を含む)週の所定労働時間が20時間以上
従業員50人以下の法人週の所定労働時間と月の所定労働日数が、フルタイムの4分の3以上
あてはまる → 勤め先の健康保険・厚生年金に加入(家族の扶養からは外れます)
あてはまらない
STEP 2
年収の見込みが130万円未満?
はい家族の健康保険の扶養のまま(扶養内)
いいえ扶養から外れ、自分で国民健康保険・国民年金に加入
※学生(休学中・定時制・通信制の方などを除く)は、週20時間以上でも短時間労働者としての加入の対象外です。60歳以上・一定の障害のある方は180万円、19歳以上23歳未満の方(配偶者を除く)は150万円で判定します。家族と同居している場合は、扶養する方の収入の半分未満であることも必要です。
時給別・週何時間までなら扶養内か(早見表)
社会保険の扶養(年収130万円未満)の範囲で働ける、週の所定労働時間の目安です。従業員51人以上の法人では、130万円より先に「週20時間」の線にかかる場合があります。
| 時給 | 従業員50人以下 の法人 | 従業員51人以上 の法人 |
|---|---|---|
| 1,100円 | 週22.5時間まで | 週20時間未満 |
| 1,200円 | 週20.5時間まで | 週20時間未満 |
| 1,300円 | 週19時間まで | 週19時間まで |
| 1,400円 | 週17.5時間まで | 週17.5時間まで |
| 1,500円 | 週16.5時間まで | 週16.5時間まで |
※1年を52.14週(365日÷7日)として「時給 × 週の時間 × 52.14週」が130万円未満になる時間を計算し、0.5時間単位で切り下げています。時給だけで計算しているため、手当や賞与がある場合は、その分も含めて計算してください。時給がおよそ1,247円未満の場合は、週20時間で働くと年収が130万円未満に収まるため、従業員51人以上の法人では「週20時間」が先に効きます。任意特定適用事業所になっている法人は、右の列を見てください。
時給は、最低賃金の改定や処遇改善の手当の見直しで上がることがあります。時給が上がると、同じ時間でも線を超えることがあるので、時給を改定したときは働く時間もあわせて見直しましょう(最低賃金の改定については最低賃金の改定で求人票を見直すポイントの記事でまとめています)。
扶養内の求人票で押さえる6つのポイント
まず、扶養内で働きたい方に向けた求人票の例です。番号は、このあとのポイントの番号と対応しています。
求人票(パート・扶養内)
- 雇用形態
- 1パート(扶養内で働けます。年収130万円未満・週20時間未満で勤務日数を相談できます)
- 勤務時間
- 29:00〜13:00、週3〜4日(週12〜16時間)
- 賃金
- 時給1,250円
- 通勤手当
- 3実費支給(上限月1万円)
- 加入保険
- 4労災保険(週の所定労働時間が20時間未満のため、雇用保険・健康保険・厚生年金の加入はありません)
- 雇用期間
- 5期間の定めなし
この例で週4日働いた場合の年収の見込みは、時給分が約104万円、通勤手当を上限まで受け取っても約116万円で、130万円未満に収まります。
1. 「扶養内OK」だけで終わらせない
「扶養内」には線がいくつもあるため、「扶養内OK」だけでは、応募する方がどの線を想定すればよいか分かりません。「扶養内で働けます(年収130万円未満・週20時間未満で勤務日数を相談できます)」のように、どの線に合わせて働けるのかを書きましょう。
2. 週の所定労働時間を数字で書く
シフト制の求人でも、「週3〜4日・1日4時間(週12〜16時間)」のように、週に何時間働くかが分かるように書きます。採用するときの労働条件通知書には、確定した労働時間を書いておくと、働く方が扶養の手続きで使いやすくなります(「シフト制による」だけでは、2026年4月からの判定方法が使えません)。
3. 手当と賞与の金額を書く
扶養の判定に使う年収には、諸手当と賞与も含まれます。通勤手当は「実費支給(上限月1万円)」のように金額の上限が分かる形で書き、処遇改善の手当や賞与・一時金がある場合は、その支給方法と目安の金額も書いておきましょう。
採用するときの労働条件通知書には、上限ではなく、その方に実際に支給する通勤手当の月額(例:月6,800円)を書きます。手当の金額が分からない書き方だと、2026年4月からの判定方法が使えません。
4. 加入する保険を、求人ごとに正しく書く
求人票には、健康保険・厚生年金・労災保険・雇用保険の適用について書くことが職業安定法で決まっています。扶養内で働く方向けの求人と、社会保険に加入して働く方向けの求人では、加入する保険が変わります。ハローワークも、フルタイムとパートタイムなどで適用される内容が異なる場合は、求人ごとに入力するよう案内しています。扶養内の求人を別の求人として出せば、加入保険の欄を迷わず正確に書けます。
なお、雇用保険は、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上働く見込みがある方が加入します。2028年10月からは、週10時間以上に広がります。
出典:厚生労働省「募集・求人業務取扱要領」/ハローワークインターネットサービス「求人情報の入力方法」/厚生労働省「雇用保険制度 Q&A~事業主の皆様へ」「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」 取扱要領を見る 入力方法を見る 雇用保険Q&Aを見る 改正の概要を見る
5. 契約期間を確認する
2026年4月からの判定方法は、契約期間が1年未満だと使えません。6か月ごとに契約を更新している場合などは、これまでどおりの方法で判定されます。どちらの場合でも扶養に入ること自体はできますが、働く方の手続きのしやすさが変わるため、契約期間も求人票に書いておきましょう。
6. 面接で家族の収入を聞かない
厚生労働省の指針・取扱要領では、募集・採用の段階で「家族の職業、収入」などの情報を集めることは、税金や社会保険の手続きに必要な場合を除いて認められていません。扶養内で働きたい方には、配偶者の年収ではなく、ご本人が希望する年収の上限や、働ける曜日・時間を聞くようにしましょう。
出典:厚生労働省「募集・求人業務取扱要領」 取扱要領を見る
採用したあとに気をつけること
- 契約の更新や条件の変更のたびに、労働条件通知書を渡す:2026年4月からの判定方法では、契約を更新したときや条件が変わったときに、その内容が分かる書面を、家族の勤め先の健康保険に出し直す必要があります。
- 時給を上げたら、年収の見込みを一緒に確認する:最低賃金の改定や処遇改善で時給が上がったときは、扶養の線を超えないか、ご本人と働く時間を相談しましょう。
- 人手不足で一時的に残業が増えたとき:一時的な事情で収入が増えた場合は、事業主がその旨を証明することで、扶養のまま認められる取扱いがあります(原則として連続2回まで)。
- 契約の時間を超える勤務が続かないようにする:従業員51人以上の法人などでは、契約上の週の所定労働時間が20時間未満でも、実際の労働時間が2か月続けて週20時間以上になり、その後も続く見込みがある場合は、3か月目の初日から社会保険に加入します。シフトの組み方で、契約の時間を超える勤務が常態にならないようにしましょう。
出典:厚生労働省「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いに係るQ&A」/全国健康保険協会「被扶養者の認定における特例について」/日本年金機構 年金Q&A(短時間労働者)「所定労働時間は週20時間未満ですが、…恒常的に実際の労働時間が週20時間以上となった場合は、どのように取り扱うのですか。」 Q&Aを見る 協会けんぽの案内を見る 日本年金機構のQ&Aを見る
労働条件通知書の書き方そのもの(シフトで決まる始業・終業の時刻や休日の書き方、2026年10月に加わった記載事項)は、パートの労働条件通知書の書き方と記入例の記事でまとめています。
まとめ
「扶養内」には、社会保険の週20時間・130万円、税の119万円・136万円・178万円、家族の勤め先の手当など、いくつもの線があります。2026年は、106万円の賃金要件の撤廃と、労働契約の内容による扶養の判定が始まり、施設が書く求人票と労働条件通知書の中身が、働く方の扶養に直接かかわるようになりました。どの線に合わせて働けるのか、週に何時間・手当はいくらかを、求人票ではっきり書いておきましょう。
※税や扶養の扱いは、家族構成や扶養する方の収入によって変わります。個別の判断は、税務署・年金事務所・加入している健康保険にご確認ください。